沢地形を滑ろう①
リップトリック〜春の沢ライド

フリーランの醍醐味が凝縮された「沢の中」を上手に滑ろう

山には沢があります。おそらく長い年月をかけて河川が浸食し、山肌にV字状の地形をもたらしたのでしょう。多くの沢では夏の間、川が流れていますが、冬になり雪が積もると沢は一面真っ白に埋め尽くされ、ちょうどハーフパイプのようなお椀型の3D地形にかわります。そうです。スノーボーダーにとって沢の中は、想像力を刺激しアドレナリンを呼び起こす、絶好の遊び場になるのです。ここではそんな魅惑の沢遊びをウォッチング。ちなみに沢筋は雪崩の通り道になり、雪の量が少なければズボッと川に落ちますのでくれぐれもお気をつけて。

出だしでリップトリックを仕掛ける心意気

5月27日。6月がすぐそこだというのにニセコ周辺には有り余るほどの雪。例年より1ヶ月は雪の量がずれ込んでいるのでは!?雪質は固く、雪面がボコボコと波打っている様はまるで、雪の中に無数のテニスボールが埋め込まれているよう。気温は20°を越える初夏の陽気。連日照らし続ける強い日差しにより、場所によってはクラック(亀裂)も見られます。オールラウンドに何でもこなすK2の天海洋(ヨウ君)は 、そんなハードな沢の滑り出しを、余裕のリップトリックで開始します。

リップトリックを終え、先の壁を見据えてターンを加速させていく。
着地後そのままフロントサイドの壁に突入し、地形の凹凸を上手く活かしてヒールサイドのターンを行い、ボードをどんどん加速させています。(写真左)エッジ操作を間違えればすぐに弾かれてしまう状況の中、一発目からお洒落なトリックを入れてくる心意気が素敵ですね。
クラック下を慎重に当て込む。

直前の壁でしっかりボードに加重し、十分なスピードを得た後に待ち構えているのは、上部がすでに亀裂し、不気味な迫力を醸し出した巨大なバックサイドの壁。もしも雪質がパウダースノーやザラメ雪のコーンスノーであれば、臆せず最大限の力でスラッシュをカマせますが、前述の通りこの日はテニスボールのハードスノー。ここでヨウ君はトゥサイドターンのピークにかけて慎重にボードコントロールを行い、確実にエッジを乗せかえ、ターン後半は再び板にしっかりと加重しています。雪をまき散らす直前の、体を浮かせる瞬間がとてもかっこいいですね。体の力を抜き、一瞬無重力の状態になったあと、リズムよく雪を切り刻む。そのあとすぐに重心を低くしてボードに再度パワーを加え、そのまま次の壁へと向かいます。
メインの壁に向けグングン加速。よく見ると私服!?

沢の中腹を過ぎ、ボードスピードはどんどん上がってきています。沢の上部に比べたらバーンはいささか幅広になっています。再び現れたフロントサイドの壁を広く使い、豪快にヒールサイドターン。ターンの始まりから終盤にかけて、一貫して次の壁に目線を送り続けるヨウ君。よく見るとチノパン、ジージャン(今ジージャンで言うの!?)に素手!キャップ!サングラス!完全なる私服スタイル。個人的に、素手でスノーボードする人はかなりリスペクトです。グローブしてないと手を痛めそうで滑りが半減してしまう管理人からすれば、それだけでスタイリッシュに見えてしまいます。粋ですね。
本人いわく「アドリブ」それこそフリーランの見所!

広大で大きくそそり立った「メインディッシュ」とも呼べるバックサイドの壁が見えてきました。1つ前のバックサイドの壁でヨウ君は慎重に、丁寧にターンをしていましたが、今回の壁ではやや様子が違います。直前で有り余るほどのスピードを得たヨウ君、そのままひるむ事なくターンを開始し、今度は思い切り雪面に当て込みます。しかし力強いターンにより、ボードは進行方向へ回転し始めます。ここでボードをしっかり押さえて板の惰性を押さえるのかと思いきや、逆に惰性を利用してボードをバックサイド方向にクルッと一回転。この「ターンした後のスピン」は、日頃からヨウ君が繰り出すアクションなだけに、今回も狙ってスピンしたのかと思いきや、本人に聞いてみると「アドリブ」だったそうです。スノーボードで何らかのトリックを決めるためには相当のイメージが必要ですが、いつもイメージ通りに体とボードが動くとは限りません。頭の中で想像していることと実際の動きがとずれた場合、ヨウ君が断言する「アドリブ」を瞬時に出せれば、それはそれで見ている側にとっては、心がハッと揺らぐような、ダイナミックなアクションに変わる場合もあります。これこそフリーランの醍醐味ではないか!と思った今回のウォッチングでした。